公共事業における土壌汚染:汚染土壌の搬出先で目から鱗

先週の講演では私以外に7人の方がご発表されました。

  • 青森・岩手の大規模廃棄物の対応、
  • 土壌洗浄における重金属剥離のためのキレート剤(クエン酸、GLDA)の効果
  • 鉛及び砒素の不溶化への製鋼スラグの利用

などの講演がありましたが、一番興味深かったのは、仙台市交通局のMさんがご発表された、仙台市の地下鉄建設時に遭遇した自然的原因の基準超過の事例でした。

概要

この事例は仙台市地下鉄東西線(仙台駅から青葉山方面)を作る時に、自然的原因によるカドミウム、フッ素、ヒ素が基準を超過をした、というものです。

その基準超過土量は、、、、なんと約50万m3といわれています。
平成17年度に民間のゼネコン26社が外部搬出した汚染土量が約300万m3といわれていることからも、この量が多いことがわかります。

仙台市の公表HPはこちら
建設工事の際にはどうしても場外に搬出しなければならない土壌が出てきます。公共工事となると、その土量も半端ではない量がでます(今回の事例では用対策土が50万m3近くも発生)。そのため自然由来の基準超過土壌が確認されると、処理先の場所確保、コストが大きな課題となります。
昨年、国土交通省が「建設工事における自然由来重金属等含有土砂への対応マニュアル」を公表したように、コストも膨大になることから注目が集まっています。
上記国交省のマニュアルのPDFファイルはこちら

基準超過原因

さて、仙台市の事例ですが、基準超過原因は竜の口層と呼ばれるこの地域の有名な地層です。数年前に報道されて以来、竜の口層でのカドミウムはこの分野ではすっかり有名になりました。

前置きが長くなりましたが、今回の発表で僕が興味深い、と思ったのは以下の2点です。

  1. 竜の口層の溶出形態
  2. 基準超過土壌の処理先

興味1:竜の口層の溶出形態

竜の口層の溶出形態は大きく二つに分かれる、とのことです。一つは即時溶出と呼ばれており、掘削直後の土の分析時に溶出してくる成分のことで、竜の口層では砒素がこれにあたるそうです。
もう一つは、酸化溶出、と呼ばれており、掘削後時間が経過して土自体が酸化することで、カドミウム等が溶出してくるものです。
これは土に含まれている硫化鉱物(例えば、黄鉄鉱)が空気と水に触れて酸化すると、酸性水を発生させ、その酸性水が重金属類を溶出させやすくする、ということのようです。

黄鉄鉱の酸化と酸性水発生、カドミウム溶出のイメージ図(あくまでイメージですよ。間違っていたらすいません)

詳しくは「大地をめぐる環境問題」の6章「自然の土に含まれる重金属 」の酸性水を発生させる岩石、土壌を参照ください。

同じ土からの重金属の溶出、といっても様々な条件によって変わる、ということで、現象としては非常に面白い、でも現場からするとたまったものではないかもれしれません。

興味2:基準超過土壌を有効利用

今回の要対策土量は約50万m3。
それを掘削除去→セメント工場や埋立処理をすると単純計算でも数十億円から百数十億円レベルの費用が発生しそうです。

今回の事例では、

  1. 費用削減
  2. 基準超過土の有効利用

という観点からは、採石場跡地を借用してその森林復旧の一環として土壌を搬入する、という形態をとったとのことです。
森林復旧!!!

写真はこちらのサイトから
汚染土壌の処理、という悪いイメージ(すいません)から一転してプラスのイメージに変わります。それだけでなんかいいことをしているような気になります(僕が単純なだけですが)。

基準超過土壌への対応としては、管理型処分場と同様に遮水シート、集水・水処理設備、および敷地外の地下水モニタリング井戸設置を行った、とのことです。
当該地周辺の住民の方とも仙台市の方が話し合いをして、納得してもらったとのことですが、基準値の数倍程度であり、自然的原因である、市が責任を持って管理する、といった点が安心の材料になったようです。
対策費用の詳細はここにはかけないですが、後で森さんからお話を聞いたところ、非常に安価に収まっていました。スケールメリット、土地代が不要、という点が大きいようです。

まとめ

今回の事例は、その対策費用の低減率のみならず、基準超過土壌を用いることで、土壌自体を有効利用の観点、採石場跡地の森林復旧の一助にもなっている点で、画期的な事例となるのではないでしょうか。

基準超過土壌の処理、というと−(マイナス)から0(ゼロ)に戻す、という視点が通常であり、コストもかかって大変、というのが今まででした。今後は、このように汚染土壌を資源として(かつ低コストで)利用する、という視点を活用することが必要ですね。

そしてイメージって本当に大切やなぁ、っておもいました。

採石処分場の跡地以外になにかあるかな。こういう部分のマッチングができるといいですね。

ちなみにセメントの原料として再利用するのは土壌を資源として利用、という点では有効なのですが、やはりコストがどうしても高くなってしまうところが課題ですね。