ブラウンフィールドコラム:なぜ米国のブラウンフィールドには税金が投入されるのか?を考える。

米国で2009年度のブラウンフィールド再開発の政府予算に5500万ドルの追加があった、と報道された。これで2009年度のブラウンフィールド再開発の政府予算は総計1億7000万ドル近くとなった。

EPA Announces $55 Million for Contaminated Land Clean Up and Local Job Creation

今日は、ちょっと長くなるが、なぜ米国のブラウンフィールドにはこのような税金が投入されるのか、そしてブラウンフィールド再開発の意義を考えてみる。

2009年度のEPAのブラウンフィールドの予算

繰り返しになるが、8月4日、EPAのサイトで本年度の追加予算として、ブラウンフィールドに5500万ドルが計上されたことが報告された。2009年度の当初予算の1億1190万ドルと合計すると1億6690万ドル、日本円にして約150億円に達する。この額は前年のほぼ2倍に達している。

2009年度の当初予算の発表資料はこちら
追加予算の発表資料はこちら

本年度予算が2倍に増えた理由は、サブプライムへの対応として2月17日に成立した景気対策法であることは間違いない。

過去最大規模の減税をし、さらに、税金を投入して消費と雇用の下支えを試みる米国。投入された額は7,870億ドル、そのうち環境・エネルギー関連の予算は676 億ドルといわれている。その意味では、環境関連の予算の中でブラウンフィールドの予算は500分の1程度であるが、全体の額が大きい分それでもかなり大きな金額である。*1
いずれにせよ、本年度はスペシャルだとしても、昨年も9000万ドル規模の予算が組まれており、ブラウンフィールドへの税金の投入はそれなりの額に上っている。

なぜこのような予算が計上される理由は環境面か、経済面か?

もともとアメリカではブラウンフィールドサイトは環境リスクが低く緊急性がないサイトが多い。それは、土壌汚染のリスクが高く、かつ、緊急性があるサイトはスーパーファンドサイトもしくはNPLに登録されるからである。
このため、環境リスク対策、という観点からブラウンフィールドの再開発に予算が投入されているわけではない(もちろん目標の一つには環境リスクの防止という項目は入っている、ちなみに、2009年度のスーパーファンドサイトにはブラウンフィールドサイトの予算をはるかに上回る12億6,000万ドルの予算が計上されている。なお、ブラウンフィールドとスーパーファンドの簡単な比較を明日する予定です)。

ではなぜか?それは以下のEPAの表現および研究機関のレポートから経済的な面、特に外部性を重視しているためだと推察できる。

1.EPAは、ブラウンフィールドに対して6億7000万$を投資した結果、65億$の浄化と再開発費用を民間・公共機関よ利引き出し、約25000人分の新しい仕事を創出したと、謳っているこれらのソースはこちら。

EPA's investment in the Brownfields Program has resulted in many accomplishments, including leveraging more than $6.5 billion in brownfields cleanup and redevelopment funding from the private and public sectors and creating approximately 25,000 new jobs.

2.また、Northeast-Midwest Instituteという研究機関のレポートでは、

  1. 投資対効果:1ドルのBF公共投資により、8ドルの投資を創出
  2. 仕事創出 :11500ドルのBF公共投資により、1つの仕事を創出
  3. 土地保全 :1エーカーのBFの再開発は、4.5エーカーのGFを保全

という試算をしており、ブラウンフィールドの再開発が外部性が高いことを評価している。
この資料はこちら。

これらのことから、ブラウンフィールドの政策の目的は、経済的なもの、特に当該地の再開発進めるによる外部経済(当該地周辺への正の影響)に関することであることが伺える。

ブラウンフィールドサイトの再開発が外部性が高くなりやすい理由

個人的な考えだが、中心市街地のブラウンフィールドサイトの再開発が外部性が高くなりやすい理由は4つほどある。ここでは郊外のグリーンフィールドの新規開発と比較した。
一つ目は、密集市街地(コンパクトシティ)のほうが社会インフラのコスト(道路、送電線)が安価であること。
二つ目は、郊外緑地の価値が相対的に上昇していること。
三つ目は、米国はそのような中心市街地に工場跡地が多いこと。
四つ目は、やはり中心市街地は潜在的な需要が見込めること。

もちろん、先日の東北大学での講演で指摘があったように、45万サイト以上あるといわれている米国のブラウンフィールドをすべてが外部性が高いわけではないし、再開発できるわけではない。つまり、再開発される必要があるのは、内部性もしくは外部性のいずれかが高いサイトでなければならない。そのため、結果としては再開発効率が悪いサイトはブラウンフィールドのまま残っていく。

我々はどうするべきか?

日本では、スーパーファンドサイトとブラウンフィールドサイトのように、環境リスクや緊急性の大小による区分けはない。
また、再開発における外部性の評価、ということもなされていない。
以下の表に、私が考える内部性が低い(自発的に再開発されない)日本の土壌汚染サイトの分類とそれに必要な対応を示す。我々が必要なのは、外部性、環境リスクの判断指標の算定方法であり、それぞれの場合に対応ができる法整備ではないだろうか?

  外部性が高い 外部性が低い
汚染リスク、緊急度 大 緊急対応が必要:米国のスーパーファンドサイト 緊急対応が必要:米国のスーパーファンドサイト
汚染リスク、緊急度 小 公的予算投入:米国のブラウンフィールドサイト 再開発は厳しいサイト:環境管理のみ

※ここでは内部価値が低いサイトを対象にしており、内部価値が高く自主的に浄化されるようなサイトは対象外としている。

おまけ:これらのアメリカの予算のの内訳

ブラウンフィールドの予算の内訳は、Assessment Grants(アセスメント助成金)、Cleanup Grants(浄化助成金)、Revolving Loan Fund Grants(リボルビング・ローン・ファンド助成金)およびJob Training Grants(環境職業訓練助成金)からなる。
2009年度の当初予算の1億1190万ドルの内訳はした図のとおりでアセスメント助成金が最も多い。アセスメント助成金は一つの申請書につき20万ドル、場合によっては35万ドルまでで返済義務はない。

また、1995年のブラウンフィールド・アクション・アジェンダからの総計では、以下のようになっており、こちらもアセスメント助成金が多くなっている。

  サイト数 助成金
Assessment Grants 1400サイト 3億3750万$
Cleanup Grants 538サイト 9900万$
Revolving Loan Fund Grants 242サイト 2億3350万$
合計   約6億7000万$

これらのソースはこちら。

(作成時間120分)

*1:ちなみに環境関連ではスマートグリッド計画、送電線の整備の予算がもっとも大きく110億ドルが計上されている。余談だが、本予算以外にも金融機関の救済などに多くのドルを投入している米国、そのドルはどこから出ているのか?を考えると恐ろしい。そのうちドルの暴落、そしてインフレが起こりそうな話なのだがここではそれはおいてこう。