トリクロロエチレンの水道水質基準の規制強化?

土壌汚染対策法の改正について書こうと思いつつ時間が取れません。環境省のHPにもまだ資料がアップされていない様子。この当りの情報公開は早くして周知を図って欲しいものです。

さて、今日は違う話題で、トリクロロエチレン、水道水質基準が0.03mg/l→0.01mg/lに強化される方向で動き始めた?というものです。
最近、勉強会でも話題のリスク評価から規制(リスク管理)の流れとして興味深いので取り上げます。

ソースは環境新聞7月2日。

トリクロロエチレン、水道水質基準強化へ――厚労省 2009年07月02日
厚生労働省は、トリクロロエチレンの水道水質基準を現行の0.03mg/lから0.01mg/lに強化する。6月25日に開催した水質基準逐次改正検討会で明らかにした。内閣府食品安全委員会の最新の毒性評価検討結果を受けての見直しで、今秋開催予定の厚生科学審議会生活環境水道部会で審議、 2011年4月の省令改正をめざす。この基準見直しは、水質環境基準、土壌環境基準、地下水環境基準の見直しにも波及しそうだ。
http://eco.goo.ne.jp/news/files_daily/daily_20090702_1636.html

0.01mg/lの根拠を探ってみる

厚生労働省の水道水質基準逐次改正検討会については開催案内のみで資料は公開されていない様子。で、環境新聞の中にある
内閣府食品安全委員会の最新の毒性評価検討結果
をさがしてみると、清涼飲料水「トリクロロエチレン」に係る食品健康影響評価に関する審議結果(案)という資料(資料はこちら)にあたりました。
環境新聞の内容がこの資料の事を指しているかは不明ですが、この資料では

以上、非発がん毒性を指標とした場合のTDI を1.46 μg/kg 体重/日とし、発がん性を指標とした場合の発がんユニットリスクを8.3×10-3/(mg/kg 体重/日)と設定し
た。

(中略)

今回、食品安全委員会では非発がん毒性を指標としたTDI と発がん性に関するリスクを算出した。リスク管理機関においては、清涼飲料水中のトリクロロエチレンの管理基準を検討する際には、これら指標を踏まえ適切に基準値を設定する必要がある。
なお、非発がん毒性を指標とした場合、上記の1.46 μg/kg 体重/日を用いて寄与率を50%‡とし、体重50kg のヒトが1 日2L 飲料水を摂取したとき、飲料水中の濃度は18.3 μg/L となる。一方、上記の発がんユニットリスクを用いたとき、10-5 発がんリスクレベル§に相当する飲料水中の濃度は30 μg/L となる。

とリスク評価をしており、リスク管理については各管理機関がしっかりしないさいね、という姿勢である。

ここでのTDIから算出された18.3 μg/Lを丸めた値が、飲用水道水質基準の案として出された0.01mg/lということでしょう。
ちなみに寄与率50%は医薬品や末端商品中のトリクロロエチレンの使用が中止され、それらによる暴露が減少したため、飲料水の寄与率を50%と仮定(WHO 第3 版1次追補参照)ということらしいです。

この評価書には、清涼飲料水にトリクロロエチレンが含まれているケースがどれくらいあるのかなどの清涼飲料水とトリクロロエチレンの関係の話はほとんど出てきません。また、そもそも清涼飲料水にトリクロロエチレンの評価をする必要性について何も語られていません。この評価は、どちらかというと水道水質基準改正のための準備的なリスク評価であった、という見方もできますね。

各方面への影響は?

水道水質基準が改正されれば、水質環境基準、土壌環境基準、地下水環境基準といった環境基準、そして指定基準(あ、もうすぐ名称が変わるかも)や排水基準といったものまで見直しの機運が出る可能性があります。

  • 水道水質基準が規制強化されると:

コスト増大という面からは、自治体によっては上水施設の大幅な改善が必要なところがあるのかもしれません。これは現在の濃度を調べてみると解るはずです。
リスク削減という観点からは、私には判断ができませんが毒性評価(TDIの設定方法)と曝露評価(特に寄与率50%)の結果が妥当性があるとすれば、リスク削減という意味では意味があると思われます(リスク削減量に対する費用対効果は不明)また、下記の二つと比較してリスク削減効果は相対的に高いと考えられます。

水道水質基準が強化された結果、環境基準や排水基準、土壌汚染に係る指定基準が強化されるとどうなるのでしょうか?規制されるかどうかはわかりませんが、ちょっと妄想してみます。

  • 排水基準が規制強化されると:

排水基準に影響が出てくると、工場の水処理施設の強化が必要となりコストが必要になるでしょうね。トリクロロエチレンは比較的除去されやすいので、現状の施設でもOKかもしれないのでその額の大きさは読めませんが。
リスク削減効果という面からは、河川の流量、バックグラウンド濃度等により具体的に河川中の濃度がどれくらいになるかがわからないので、なんともいえません。これは亜鉛と同じような状況でしょうか。

  • 土壌に係る指定基準が規制強化されると:

土壌に係る指定基準まで影響が出てくると、現行の基準値まで浄化して”きれいな土地”として売却した土地が汚染が残存している土地に戻る、ということで売買が白紙になったり、瑕疵に関する訴訟になったり、という問題がでてきたりするのでしょう。これはかなり多くのサイトに波及するはずです。
特に地下水中のVOCは1mg/lを0.1mg/lまで落とすのはある程度容易ですが、0.03mg/lを0.01mg/lに落とすのはそれなりにコストと時間が必要になると考えられます。
コスト、もしくは、もめる(解決が困難)という観点からは土壌が一番大変のような気がします。行政側がなんらかの制度管理をする必要がでてくるのでしょう。

以上、朝の新幹線の中にて。